『子供の頃、虐待を受けて育った人が我が子にも虐待をしてしまう』という一説がありますが、
これには大きな誤解があります。
児童虐待の研究者ジュディス・L・ハーマンは下記の言葉を残しています。
「非常に極端なケースで虐待の生存者は自分の子を攻撃するとか保護を放棄することがある。
しかし、一般に思い込まれている『虐待の世代間伝播』に反して
圧倒的大多数の生存者は自分の子を虐待もせず、放置もしない。
多くの生存者は自分の子どもが自分に似た悲しい運命に遭いはしないかと心底から恐れており、その予防に心を砕いている」
本ブログも彼の言葉を支持します。
一昔前の未熟な研究では、児童虐待の世代間連鎖は7割とも9割ともいわれる程の高確率でした。
しかし最新の研究データでは、昔の研究方法には不十分な点があり実際の連鎖率は2割くらいだそうです。
子供の頃に虐待を受けたことは、確かに多くの場合で、自分が親になった時の子育てに影響を与えるでしょう。
しかしどう影響を受けるかと言うと、自分の子育てに強い不安を感じてしまう、という影響がほとんどです。
同じように我が子に虐待してしまうという影響は稀なのです。
このブログを読まれている方の中にも、機能不全家族に生まれ、被虐経験をお持ちの方もおられるでしょう。
上記を読み、データが示したからと言って、「あぁ良かった。私は我が子に虐待しないのか。」と安心できる方は少ないかもしれません。「虐待してしまうかも」という強い不安や恐れは簡単に消えるものではないからです。
それでも、まずは最新データとして連鎖率は過去信じられていたほど高くはないのだという事実を知っていただきたいのです。
「しかし2割は連鎖するのだ。自分はその2割ではないか?」と思う方もいるかもしれません。次に、この2割について言及していきます。
実はこの虐待世代間連鎖2割と言う割合が、とある障害の遺伝割合とニアリーイコールではないかと気づいた医師等がいます。つまり、両者は強い因果関係にあるのだと。
とある障害、それは軽度知的障害(IQ50~70相当)あるいは境界知能(IQ70~85相当。現在の医学的定義上は知的障害にはあたらないが、正常知能とは言えないグレーゾーンのIQを持つ人たち。以前の定義には本領域IQも軽度知的障害となっていた。)です。親の知的障害は約2割の確率で子に遺伝するそうです。両親ともに知的な障害があれば、遺伝確率は更に高まります。
精神科医の高橋和巳医師等は、
過去に虐待を受けたという経験が、現在の虐待をもたらすのではなく、軽度の知的障害や境界知能が虐待をもたらしていることが殆どなのではないか。
と考えられています。まるで虐待経験が連鎖しているように見えるが、本当に連鎖していたのは親の「知的障害の遺伝」だった、というのです。
コメント