「虐待の世代間連鎖」は誤解されている|虐待サバイバーが子どもを虐待するとは限らない

本ブログに足を止めてくださり、有難うございます。この記事は虐待サバイバーの方に向けた内容です。初めての方は、事前に下記の記事をご覧ください。

「虐待を受けて育った人は、自分の子どもにも虐待をする」——この通説は、多くの虐待サバイバーを苦しめてきました。しかし、最新の研究はこの「世代間連鎖」が大きく誤解されていることを示しています。

前回の記事では、虐待連鎖の研究史をたどり、かつて7〜9割と言われた連鎖率が、実際には約3割(25〜35%)であることを解説しました※1。今回は、その「誤解」の核心に踏み込みます。

目次

第1章 ジュディス・ハーマンの言葉

児童虚待の研究者ジュディス・コルネリウス・ハーマンは、この問題について重要な言葉を残しています※2。要約すると、以下のとおりです。

非常に極端なケースにおいて虚待の生存者が自分の子を攻撃したり保護を放棄することはある。
しかし、圧倒的大多数の生存者は自分の子を虚待も放置もしない。
むしろ多くの生存者は、自分の子どもが同じ運命をたどることを心底から恐れ、その予防に心を禄いている。

本ブログもこの見解を支持します。虐待を受けたからといって、虐待する親になるわけではありません。

むしろ、自分の子育てに強い不安を抱えるという影響のほうが圧倒的に多いのです。

第2章 「3割の連鎖」の正体

前回の記事で見たように、最新の研究データが示す虐待の連鎖率は約3割(25〜35%)です※1。では、この3割は何を意味しているのでしょうか。

→ 前回の記事:「虚待は連鎖する」と信じられてきた理由|この通説は本当か?

実はこの「虐待の世代間連鎖」が約3割(25〜35%)という一定の確率で生じることと、ある障害の遺伝傾向とのあいだに関連があると指摘した医師たちがいます。

その障害とは、軽度知的障がい(IQ 50〜70)あるいは境界知能(IQ 70〜85)です。

親に軽度知的障がいや境界知能がある場合、その知能の特性は約2割の確率で子に遺伝するとされています※3。両親ともに知的な弱さがある場合は、遺伝の確率はさらに高まります。虐待連鎖率の25〜35%という範囲と完全には一致しませんが、同じオーダーの数値であることが、両者の関連を示唆する根拠のひとつとなっています。

精神科医の高橋和巳医師らは、次のような仮説を提唱しています。

過去に虐待を受けたという経験が現在の虐待をもたらすのではなく、軽度の知的障がいや境界知能が遺伝したことにより虐待をもたらしていることがほとんどなのではないか、と。

つまり、まるで「虐待経験」が親から子へ連鎖しているように見えるが、本当に連鎖していたのは「知的障がいの遺伝」だったという視点です。

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