知的障がいの「軽度」と「境界知能」とは?|見えにくい知能の特性を解説

「知的障害(知的能力障害)」と耳にして、どんな方のことを思い浮かべるだろうか。

おそらく多くの人のイメージはこうだ。

  • 言葉の理解や発語に遅れがある人
  • 読み書き・暗記・時間・お金の計算といった学習に遅れがある人
  • 日常生活の多くの場面で支援や介護が必要な人

福祉に携わっていなければ、知的障害の人に日常で出会う機会はあまりない。街中や駅でたまに見かけると、困っていそうであれば声をかけ、そうでなければそっと見守る。

そういう存在として、頭の中に浮かぶのではないだろうか。

このイメージは、間違っていない。ただし、それは知的障害のごく一部の側面に過ぎない。

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第1章:多くの人のイメージが届いていない、知的障害の「外側」

一般の人が「この人は知的障害をお持ちなのかもしれない」と察することができるのは、主に中度(IQ50前後まで)・重度(IQ35前後まで)の人たちだ。顔つきや目線、話し方から、少し接すれば自然に分かる。

中度・重度の障害は、ほとんどの場合、乳幼児期のうちに周囲が気づく。言葉の遅れ、食事や排泄の自立の難しさ、コミュニケーションのぎこちなさ——これらは日常の中で自然と浮かび上がる。

中度であれば、成人になっても日常会話は同年代よりはるかに単純で、学習能力はおおむね小学低学年の水準にとどまる。重度・最重度になると、数や時間、金銭などの概念の理解が難しく、日常生活のすべてに介助や見守りが必要になる。

こうした人たちは、診断を受けた後、施設や特別支援学校、作業所など保護的な環境の中で暮らす。常に支援者が身近にいて、能力の範囲に合わせた環境が整えられている。結果として、社会的なトラブルが生じにくく、福祉や医療の現場で問題化することも比較的少ない。

「手がかかる」が、「見えている」存在だ。社会的な仕組みが、ある程度彼らを包んでいる。何か問題が起きても、支援の網に引っかかって、対処がなされる。

だから問題となりやすいのは、中度・重度の知的障害ではない。その先にいる人たちだ。

軽度知的障がい(IQ50~69)という区分がある。中度・重度があるのだから軽度があるのは当然だが、多くの人の頭のイメージからすっぽり抜け落ちている。

さらに、境界知能(IQ70~85)という層もある。IQ70という軽度知的障がいの診断基準を1ポイント超えたからといって、突然「正常」になる訳ではない。グラデーションがあるのは考えてみれば当然のことだが、この存在もまた見過ごされやすい。

以下の表は、IQによる区分と、それぞれが知的障害者全体および全人口に占める割合をまとめたものだ。

区分 IQ範囲 知的障害者全体に占める割合 全人口に占める割合
最重度 ~19 約1~2% 0.05%以下
重度 20~34 約3~4% 0.1%以下
中度 35~49 約10% 約0.3%
軽度知的障がい 50~69 約85% 約2%
境界知能(ボーダー) 70~85 定義上は対象外 約14%

 

中度・重度・最重度をすべて合わせても15%前後にすぎない。軽度(IQ50〜69)が知的障害全体の約85%を占めており、「知的障害のある人」の大多数は軽度知的障碍者であることが表から分かる。境界知能はさらに多く、軽度知的障害と地続きの層として全人口の約14%を占めるとされている。知的障害のある人全体(約2〜3%)の5倍以上にもなる数だ。

「見落とされる理由」

既に述べた通り、軽度知的障がいと境界知能の総数は決して少なくない。職場の同僚や、隣人、親戚の中にいてもおかしくない割合だ。にもかかわらず、なぜ社会は彼らに気づかないのか。理由は2つ考えられる。

一つは、「軽度知的障がい」や「境界知能」という概念自体が、あまり知られていないことだ。一般の人にとって、知的障害のイメージの多くはドラマや映画が作っている。しかしそこに登場する「知的障害のある人」はほとんどが中度以上を想定した演出となっている。

自閉症を題材にした作品は増えてきたが、軽度知的障がいを正面から扱ったものはほとんど目にしない。だから「軽度」や「境界知能」という言葉が指す実態を正確に知っている人は、当事者を家族に持つ人や福祉職の人を除けば、ごく少ない。

もう一つの理由、そしてより本質的な理由は、彼らの日常が一見すると「普通に見える」ことだ。読み書きはできる。決まったルートであれば一人で電車にも乗れる。家事も仕事も、シンプルなことならこなせる。会話も成り立つ。

医学的に「軽度」と分類されるだけあって、常に介護や介助が必要な中度以上の人たちと違い、介護の必要性・逼迫性という面からすれば確かに「軽度」である。

境界知能であればさらに出来ることの幅が広がり、行政の窓口でも医療の現場でも「普通の人」として扱われる。

しかし、「普通に見える」ことと「普通にできる」ことはまったく違う。そして、必要な支援が届かないまま、困難は静かに積み重なっていく。

では、それぞれの層はどのような困難を抱えているのか。まず、支援の現場でたびたび登場する「軽度知的障がい」から見ていこう。

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