「弁護士に相談したいけど、費用がない」「どこに相談すればいいかわからない」──そんな悩みを持つ虐待サバイバーは少なくない。しかし、この壁は思うより低いものだ。日本には、経済的に困難な状況にある人びとが法的支援を受けられる複数の制度がある。2026年から新たな支援も加わり、以前よりも利用しやすくなっている。
弁護士費用が払えないことは、法的支援を受ける権利を手放す理由にはならない。このガイドでは、虐待からの回復と法的問題解決に必要な支援制度を、わかりやすく説明する。
法テラスの民事法律扶助制度
法テラスとは
法テラス(正式名称:日本司法支援センター)は、国が設立した法的支援の総合窓口機関だ。弁護士費用が払えない人でも法的支援を受けられるよう、全国に事務所を構え、無料相談・費用立替・犯罪被害者支援などのサービスを提供している。2006年に設立され、虐待・DV・離婚・相続などあらゆる法的問題に対応している。電話番号は0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)。
制度の概要
法テラス(支援の現場として知られる公式支援機関)の民事法律扶助制度は、収入が一定額以下の人に対して、無料または低額での法律相談と弁護士の費用をサポートしている。虐待に関する民事事件(損害賠償請求、親権問題、離婚にともなう慰謝料請求など)の多くがこの制度の対象になる。
収入・預金要件
利用するには、①月収と②預貯金の、2つの要件をどちらも満たす必要がある。生活保護受給者は審査なしで自動的に要件を満たす。
① 月収の目安(手取り・2026年基準)
| 家族構成 | 毎月の手取り上限 |
|---|---|
| 単身 | 約182,000円 |
| 2人世帯 | 約251,000円 |
| 3人世帯 | 約272,000円 |
| 4人世帯 | 約299,000円 |
※ 東京・大阪など大都市圏(生活保護基準の一級地)では上限額が異なります(例:単身の場合 約200,200円)。
② 預貯金の上限(現金・預貯金の合計)
| 家族構成 | 預貯金の上限 |
|---|---|
| 単身 | 約180万円以下 |
| 2人世帯 | 約250万円以下 |
| 3人世帯 | 約270万円以下 |
| 4人世帯以上 | 約300万円以下 |
※ 不動産(持ち家・土地)は資産に含まれません。
利用の流れ
- 法テラスの窓口(全国に配置)または電話(0570-078374)で無料相談を申し込む
- 弁護士による法律相談(無料・30分程度)
- 扶助が必要と判断されれば、弁護士費用を法テラスが直接払い(または一部負担)
- 相談者は後日、費用を段階的に返済(償還)
法テラスの扶助は弁護士費用が免除されるわけではない。費用は法テラスが立て替え、相談者が後から分割で返済する。生活保護受給者など一定の条件を満たす場合は返済が免除されることもある。
償還について
「償還」とは、法テラスが立て替えた弁護士費用を、後から依頼者が返済することを指す。重要な点として、法テラスの扶助を受けた場合、原則として後日費用を返済する必要がある。ただし、以下の場合は償還が全額または部分的に免除されることがある。
- 事件の結果、慰謝料や損害賠償金を相手方から回収できた場合
- 生活保護受給者で、特別な事情がある場合
- 事件終了後、生活が著しく困難になった場合(申立により検討される)
償還期間は通常3年で、月々の返済額は相談者の経済状況に合わせて決定される。
担当弁護士が合わないと感じたとき:途中変更の方法
法テラスを通じて依頼した弁護士に不満を感じた場合、弁護士を変更することは可能だ。ただし、法テラスを利用している場合の委任契約は、依頼者・弁護士・法テラスの三者間の契約であるため、解任には法テラスの決定が必要となる。
変更を希望する場合は、依頼している弁護士に解任の手続きをお願いするか、法テラスの事務局に直接連絡する方法がある。弁護士に連絡しにくい場合は、法テラスへの直接連絡も可能だ。
なお、法テラスとの契約中でも、セカンドオピニオンとして別の弁護士に相談することは可能だ。「弁護士の対応が本当におかしいのか」と不安になったときは、解任を決断する前に別の弁護士の意見を聞くことを検討するのがいい。法テラスの無料法律相談が利用できるかどうかは、法テラスに事前確認することをお勧めする。
2026年1月開始:犯罪被害者等支援弁護士制度
新制度の背景と重要性
2026年1月に、法テラスの新しい専門制度が開始された。これまで、虐待が刑事事件として立件された場合の法的支援が限定的だったのに対し、犯罪被害者等支援弁護士制度は、虐待の被害者をより包括的にサポートする仕組みだ。
対象となる虐待
この制度は、以下の犯罪に該当する虐待が対象だ。
- 傷害罪(身体的虐待による怪我)
- 暴行罪
- 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪(旧・強制わいせつ罪・強制性交等罪)(性的虐待)
- 脅迫罪・恐喝罪(精神的虐待が脅迫に該当する場合)
- 遺棄罪(ネグレクト)
重要な注意点として、単なる言葉による暴言や、法的に「虐待」と証明されていない状況では、この制度の対象にならない可能性がある。「虐待の疑い」の段階では利用できず、刑事告訴や告発が検討されている、あるいはすでに警察に通報した状況が目安になる。
支援内容
犯罪被害者等支援弁護士制度では、以下の支援が提供される。
- 犯罪被害者としての法的地位(捜査過程での参考人聴取、公判での被害者参考人質問など)の説明
- 刑事事件化に向けた手続きや準備の相談
- 民事裁判(損害賠償請求)との連携に関する助言
- 給付金申請のサポート
- 自治体の支援制度についての情報提供
費用について
犯罪被害者等支援弁護士制度は、弁護士費用が原則かからない。国が費用を負担するため、経済的な心配なく弁護士に相談・依頼できる。ただし、訴訟費用など実費が発生する場合がある。
犯罪被害者等支援弁護士制度(2026年1月13日開始)は、対象犯罪の被害者に弁護士費用を国が負担する。ただし、2026年1月13日以降に発生した犯罪行為が対象。それ以前の虐待には原則適用されない。
要件と申し込み方法
以下の要件を満たすことが利用の条件だ。
- 対象となる犯罪被害がある(身体的虐待による傷害・暴行、性的虐待による不同意わいせつ・不同意性交等、精神的虐待が脅迫に該当する場合など)。被害届を提出済み、または提出を検討していること。どの行為が犯罪に当たるかは、弁護士や法テラスへの相談で確認できる。
- 経済的要件を満たす(申込者と配偶者の現金・預貯金・有価証券など「流動資産」の合計が300万円以下)。これは世帯の手元にある資産のことで、不動産(家・土地)は含まれない。なお、配偶者がDVなどの加害者である場合は、配偶者の資産を合算しない特例がある。
- 成人・未成年を問わず利用可能(保護者の同意が必要な場合あり)
申し込みは以下の窓口で行える。
- 法テラス各支部(全国配置)
- 警察の被害者支援制度(警察で相談したうえで紹介を受ける)
- 都道府県の被害者支援窓口
重要な注意点
利用者が理解すべき重要な点を以下にまとめた。
-
刑事事件化の是非は自分では決められない:警察や検察が被害届を受け付けるかどうか、立件するかどうかは、被害者の側では判断できない。虐待であることが法的に認定されないリスクもある。
-
証拠が不足していると進まない:身体的虐待で医師の診断書がある、性的虐待の直後に警察で検査を受けたなど、客観的な証拠があるほど、刑事事件としての検討が進みやすくなる。
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長期間がかかる可能性:捜査から刑事裁判まで、1年以上の期間を要することが多いだ。その間、被害者は法的な不確実性のストレスを抱え続けることになる。
-
民事と刑事の違い:刑事事件で加害者が有罪になっても、自動的に損害賠償が払われるわけではない。民事裁判(損害賠償請求)を別途進める必要がある。
犯罪被害者等給付金制度
給付金とは何か
虐待が犯罪として認定された場合、被害者が国から給付金(補償)を受け取れる制度がある。これは、犯人の処罰の結果ではなく、政府が被害者に対する社会的責任として給付するものだ。
給付対象となる虐待
以下の犯罪による虐待が対象だ。
- 暴力による傷害(診断書で医学的証拠が残っているもの)
- 性的虐待・性暴力
- 脅迫による精神的被害(医師の診断が必要)
給付金を受けるためには、以下のいずれかの条件が必要だ。
- 加害者が刑事事件で有罪判決を受けた
- 加害者が死亡した、または所在不明で捜査が打ち切られた
- 被害者が刑事事件の被害者であることが警察等で認定されている
給付金の種類と目安
給付金は、被害の程度に応じて複数のカテゴリーに分かれている(2026年の目安)。
| 被害の程度 | 給付金の上限 |
|---|---|
| 身体障害(治療期間3ヶ月以上) | 約120万円 |
| 身体障害(治療期間2週間以上3ヶ月未満) | 約40万円 |
| 死亡 | 約310万円 |
実際の給付額は、治療にかかった期間、後遺症の有無、労働能力喪失の度合いなどを考慮して決定される。
申請の流れ
- 警察に被害届を提出し、虐待が犯罪として扱われていることを確認
- 加害者の刑事事件が一定程度進んだ段階(有罪判決など)で、都道府県警察の被害者支援窓口に申請用紙を請求
- 医師の診断書、治療の領収書など、被害を証明する書類を揃える
- 都道府県警察に申請
- 警察から国へ報告され、審査を経て給付
申請期限
給付金の申請期限は、犯罪被害者等給付金支給法第10条により、①被害の発生を知った日から2年以内、かつ②犯罪発生から7年以内、という二重の期限が設けられている。未成年時に虐待を受けた場合でも、成人後に申請できるが、犯罪発生から7年という上限は変わりない。被害に気づいた段階でなるべく早く動くことが重要だ。
給付金と損害賠償請求:同時に進められるのか
犯罪被害者給付金を受け取った場合でも、加害者への損害賠償請求は別途可能だ。ただし、給付金で受け取った金額が損害賠償として認められる額を上回る場合は、「損害はすでに回復されている」として損害賠償請求が認められないことがある。
一般的に給付金の金額はそれほど大きくないため、損害賠償請求が別途可能であることが多いだ。どの程度の損害賠償請求が見込めるかは、弁護士に相談することで一定の見通しを得ることができる。
一点注意が必要なのは申請期限だ。前述の通り、被害を知った日から2年以内、かつ犯罪発生から7年以内という二重の上限がある。PTSDや記憶の抑圧などで長期間申請できなかった場合も、「犯罪発生から7年」という客観的な期限は変わらないため、実務上の判断は厳しいものとなっている。気づいた段階でできるだけ早く弁護士または支援機関に相談することを強く勧める。
犯罪被害給付金の申請期限は「被害を知った日から2年以内」かつ「犯罪発生から7年以内」という二重の上限がある(犯罪被害者等給付金支給法第10条)。PTSDなどで気づくのが遅れても、犯罪発生から7年という客観的な期限は変わらない。

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